インターネットヤミ市の「ヤミ」は「ブラックマーケット」と「病む」とふたつの意味をもっている.違法のものは売れない明るいブラックマーケットしてのヤミ市.フェティシュで中毒性が高くてどんどん病んでいく,ネットにずぶずぶと入り込んでいくような感覚を示すヤミ市.インターネットに入り込んでいくような感覚なのに,インターネットヤミ市はリアルで行われていて,現地に行かなければ買えない残念なECになっている.もちろん,ここでの「残念」はポジティブな意味である.さやわかさんの『10年代文化論』で示されたポジティブな意味での「残念」感をヤミ市は共有している. その「残念」を示すために,IDPWが選択したのは「turn off, log-out, and drop in on the real world for a change」であった.もともと設定がゆるくて自由であったインターネットが,近頃,窮屈になってきたことから,そこから,コンピュータの電源を切って,ログアウトして,リアルに飛び降りようという感じだろうか.ログインをして自由の世界に行っていたのは全く別のことを行う.そこには,ログオフしてもインターネットの感覚,インターネットっぽさはもう僕たちの身体に入り込んでいるという確信があったのだろう.それは単に「インターネットは自由だ」と言うだけよりも,インターネットを信頼しているし,僕たち自身の感覚も信頼している感じがする.インターネットと身体を信頼することで,お金まみれのカリフォルニア・イデオロギーの「自由」の欺瞞を乗り越えてしまう. インターネットヤミ市はインターネットのゆるい設定に,自身の感覚と身体をインストールして,インターネットとともにあるリアルを書き換えてしまう.そして,ヤミ市はインターネット自体を二次創作していく. つまり,はちゅねミクやネギなどの「残念」な味付けは,このキャラクターは「何でもあり」なのだということを表す記号になっているわけだ.初音ミクはクールなイメージで使ってもいいし,バカバカしいことに使ってもいい.「残念」な要素はそれ自体が持つコミカルな意味以上に,初音ミクが持つ自由な象徴としてあるのだ.(p.71) さやわかさんが初音ミクの設定のゆるさが自由の象徴として,その後の多種多様な表現に結びついたと指摘するように,IDPWはイン...