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マジック・メモ:行為=痕跡=イメージの解体可能性
フロイトは,自らの記憶と知覚のメカニズムに関する仮説のために,当時,売り出されていた玩具である,マジック・メモという装置を取りあげた.その理由は,この装置のイメージを表示する表面が,「いつでも新たな受け入れ能力を提供すると同時に,記録したメモの持続的な痕跡を維持するという二つの能力を備えている」2-11) からであった.フロイトは,「情報を無限に受け入れる能力と,持続的な痕跡の保存は,互いに排除しあう特性」2-12) と考えていたが,マジック・メモは,その相反する能力を同時に実現する装置であり,その構造は,次のように記されている. このマジック・メモは,暗褐色の合成樹脂あるいはワックスのボードに,厚紙の縁をつけたものである.ボードの上を一枚の透明なカバー・シートが覆っていて,その上端がボードに固定されている.このカバー・シートは,固定されている部分を除いて,ボードから離れている.この小さな装置でもっとも興味深いのは,このカバー・シートの部分である.このカバー・シートは二枚のシートで構成され,シートは二カ所の末端部分を除くと,互いに離すことができる.上のシートは透明なセルロイドである.下のシートは半透明の薄いパラフィン紙である.この装置を使用しない時にはパラフィン紙の下の面は,ワックス・ボードの上の表面に軽く粘着している.2-13) ここから,マジック・メモについてわかることは,大きく分けて,ワックス・ボードとカバー・シートという二つの部分から,この装置が構成されているということである.そして,カバー・シートは,透明なセルロイドの層と半透明の薄いパラフィン紙から構成されているので,全体としては,三層構造の装置ということになる.フロイトは,次に,この装置を使用するプロセスを詳細に述べている. このマジック・メモを使う際には,ボードを覆ったカバー・シートのセルロイドのシートの部分にメモを書く.そのためには鉛筆もチョークも不要である.受け入れ表面の上になにか物質を沈着させて記録を残すのではないからである.マジック・メモは,古代において粘土板や鑞盤に記録したのと同じ方式を採用しているのであり,尖筆のようなもので表面を引っ掻くと,表面がへこみ,これが「記録」となるのである.マジック・メモではこの引っ掻く動作は直接行われるのではなく,ボードを覆った二枚のシートを介して行われる