GIFとの遭遇:選択的認識と低解像度のデフォルメされた世界 (1)

1.はじめに
 「GIF」とは「Graphics Interchange Format」の頭文字をとったもので,JPEGと並んで多くのブラウザにサポートされ,インターネットでよく使われている圧縮画像形式のひとつである.フルカラーを表示できるJPEGとは異なり256色しか表示できないGIFだが,「透過」や「アニメーション」といった他の画像形式にはない機能を持つために,ウェブの初期から使われている.

 まずGIFの歴史を簡単に振り返ってみたい.1987年5月28日,パソコン通信会社CompuServeが圧縮画像フォーマットとしてGIF規格「GIF87a」を公表する.さらに,GIFの大きな特徴となる「透過」や「アニメーション」機能の拡張をした「GIF89a」が1987年7月に策定される.その後,1995年9月にNetscape Navigatorのヴァージョン2.0が「GIF89a」をサポートしたことで,GIFアニメーションは徐々にネットに拡がっていき,ホームページを飾る要素として「工事中」を示すアニメーションや「回る地球[earth.gif]」などがネットに配置されていった1.同時に「単体で完結する物語作品としてのGIFアニメ2」も登場するようになる.その後,GIFは次のような経過を辿る.

GIFアニメは,2000年頃までにウェブ上の動画コンテンツとして確固たる地位を築いた,かのように見えたが,2001年前後からFlashアニメという新たな潮流の登場によって,少しずつ表舞台で話題になる回数は減っていく.2001年9月1日にサービスを開始した「Yahoo! BB」に象徴されるブロードバンドの普及により,常時接続と大容量回線が当然のものとなることで,軽い面白さが売りのGIFアニメよりも,多少容量が大きくても音楽や美しい映像を駆使したFlashアニメのほうが喜ばれるようになった3

 しかし,2007年に発表されたiPhoneがFlashをサポートしないなどiOSデバイスからの締め出しや,ダッシュボードというタイムライン型のインターフェイスを持つTumblrの登場などによって,ダウンロードがはやく,再生ボタンがなく勝手に再生されるGIFは「短い動画」として再び注目を集め4.アートGIFのムーブメントを牽引してきた美術批評家のパディ・ジョンソンが「2010年はGIFアニメーションの年5」と書くほどに,ネット上でひとつの表現手段として使われるようになる.さらに,アートだけではなく報道の分野でもGIFが使われるようになり,オックスフォード大学のアメリカ出版局は「2012年の言葉」に「動詞としてのGIF」を選ぶ.GIFはファイルフォーマットを示す「名詞」としては既に英語辞典に掲載されているが,「動画や写真からアニメーションをつくる」という「動詞」の意味はまだなかったのである6

 以上のように多様な要素を含むGIFであるが,本論文では機能拡張のひとつである「アニメーション」に集中してGIFを考察していく.それは,GIFがアニメーション機能によってウェブ上の「短い動画」として特別な存在になっていると考えられるからである.さらに,2012年にGIFアニメーションが流行したのはファッション業界で使われたことが引き金になっているのだが,ここでは主に「ポスト・インターネット7」と呼ばれる「インターネットが当たり前となった状況のもとでのアート」をめぐる言説から,GIFのあり方を考えていく.なぜなら,ネットがあたり前になったからこそ,そこであたり前に使われているGIFやJPEGのような画像ファイル形式がもつ「質感」が認識されるようになってきたからである.Web制作会社代表の栗田洋介が「だんだん「降りてきている」と言いますかね.サーヴィスも充実してきているので,もっとファイル形式とかそれを組み立てる言語のほうに安定を求めるというか8」と指摘するように,「ポスト・インターネット」的状況ではインターネット自体の可能性から,その場を成立させている要素へと興味が「降りてきている」.その際に,いかなるブラウザ,モバイルデバイスでも見ることができるGIFが注目されるようになってきた.そうした状況のなかで,「ネットアーティストたちの様々なGIFアニメーションの実践は,GIFというファイルフォーマットの新たな質感や意味を提示する意義深いもの9」と,自らもGIFアニメ及びその展示プラットフォーム10もつくる谷口暁彦が書くように,この領域の作家や批評家がもっとも真摯にGIFの独自性を追求していると考えられるのである.

1 ばるぼら「GIFアニメーションの歴史〈前篇〉─── GIFの誕生と最初の流行 1987-2001」,古屋蔵人・いしいこうた編『GIF BOOK───コンテンツ制作者のためのGIFガイド』株式会社ビー・エヌ・エヌ新社,2013年,10−13頁.
2 同上書,15頁.
3 同上書,17頁.
4 谷口暁彦「GIFアニメーションの歴史〈後篇〉─── 再評価されたGIFフォーマット 2000−現在」古屋蔵人・いしいこうた編『GIF BOOK───コンテンツ制作者のためのGIFガイド』株式会社ビー・エヌ・エヌ新社,2013年,18−20頁.
5 Paddy Johnson, The Year of The Animated Gif, ARTFCITY, 2010, http://www.artfagcity.com/2010/10/07/the-year-of-the-animated-gif/ (2013.3.13)
6 Oxford Dictionaries USA Word of the Year 2012, http://blog.oxforddictionaries.com/press-releases/us-word-of-the-year-2012/ (2013.3.13)
7 「ポスト・インターネット」という言葉は,2008年にアーティストでもあり,批評家・キュレーターでもあるマリサ・オルソンがインタヴューの中で言ったことがはじまりとされる.オルソンは,インターネットはすべての人に影響しており,オンライン/オフラインの区別は無効であるという意識のもとで「ポスト・インターネット」という語を使っている.それを受けて,批評家のジーン・マクヒューが「Post Internet」という自身のブログに「「ポスト・インターネット」について語るときに可能な4つの方法」という記事を書く.
*1:WWW以後のニュー・メディア・アート
*2:マリサ・オルソンの定義:インターネットを使用した後に作られたアート
*3:インターネットが陳腐なものになった状況に反応しているアート
これがジーン・マクヒュー自身の見解.彼自身は「誰もがインターネットを自由に使えるようになってしまった,そういう状況に反応しているアートが「ポスト・インターネット・アート」である.
*4:ガスリー・ロナガンが言っているように,イメージがオブジェクトよりも広がっていくもの
8 栗田洋介+谷口暁彦+萩原俊矢+畠中実+水野勝仁,座談会「『ポスト・インターネット』を考える(β)」,NTTインターコミュニケーション・センター(ICC),2012年3月4日開催,http://www.ntticc.or.jp/Exhibition/2012/Internet_Reality/document6_j.html (近日公開)
9 谷口,前掲書,22頁.
10 GIF 3D Gallery, http://okikata.org/work/work/gif-3d-gallery.html (2013.3.13)

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