GIFとの遭遇:選択的認識と低解像度のデフォルメされた世界(2)

2.GIFと情動
 2012年にファッションの業界やアメリカ大統領選挙の報道に使われたことに代表されるGIFの復活に関して,谷口は次のように書いている.

GIFアニメーションの短いループによる意味の圧縮/デフォルメ化と,そのキッチュさが風刺画のように機能しているからかもしれない.こうして2012年,一躍返り咲くことによったGIFだが,それはたんにFlashの代替として返り咲いたわけではなく,GIFというファイルフォーマットならではの質感や特性が再発見され,画像とも動画ともつかない独自の形式として認識され始めたことによるのではないだろうか11

 この谷口の指摘は,技術の制約だけでなく「GIFならでは質感が再発見される」という見る者の認識の変化も考察の対象にしている.GIFの復活は,ネットと現実の関わりに対する認識の変化と関係していると考えられる.そして,その認識の変化を捉えていたのが2010年前後からの「GIFの質感」をめぐるポスト・インターネットの言説であろう.これらの言説を参照しながら,改めて認識されたGIFのあり方をみていきたい.

ウェブネイティヴ
 GIFアニメを多く制作するトム・ムーディは,標準的なブラウザにサポートされているGIFは,ウェブのアニメーションの「ネイティブ」であると指摘する12.さらに,GIFは誰でも作れるがゆえに,半匿名状態で作品が流通していくと考えている.しかし,ムーディはFacebookがGIFをサポートしていないように,GIFはウェブからいつ排除されるかわからない存在とも考えている.その「はかなさ」ゆえに,GIFはメインストリームの外部に位置する存在であり,それゆえにアーティストにとっては打ち捨てられた広場やプールのような格好の遊び場になっているとする13

コミュニケーション
 パディ・ジョンソンは,画面上で明滅し続けるGIFはうるさいものであるが,見る者の注意を引きつけるので,あたらしい対話のはじまりになるとしている14.ジャーナリストで電子音楽のミュージシャンでもあるジョシュ・コプスタインはアニメーションのループが感情と記憶に作用するがゆえに,GIFはコミュニケーションに積極的に用いられていると分析する15

ループ
 初期のウェブの状況を考察した「デジタル・フォークロア」で有名なオリア・リアリナはGIFの特徴は「ループ」と「透過」だとしている.そして,GIFは「ループ」によって一瞬を永遠に変え,「透過」によってどこにでも存在できる可能性を得たとしている16.「透過」と「ループ」というふたつの機能によって,GIFはホームページの至る所に「動き続ける画像」として配置されることになった.そして,ソフトウェア・スタディーズやネットアートに詳しいマシュー・フラーは,2012年に開催されたGIFの展覧会「Born in 1987」に寄稿したエッセイで「GIFアニメーションは圧縮形式をポップ・カルチャーにした」と書く.「ピクセルにダンスを踊らせたGIF」は,ウェブの初期において多く人の注意を引きつけるものであった.だからこそ,リアリナの興味を引いたのだろうとフラーは考えている17

圧縮
 インターネットに関して多くテキストを執筆しているアーティスト,ブラッド・トロエメルは制約の多いGIFの画像形式自体が「検閲」として機能していると指摘する.そして,動画再生のための特定のプレイヤーを必要せず,つまり「再生ボタン」がなく,短いダウンロードが終わり次第勝手に再生されるGIFは,効率的に見ることができる「短い動画」であるとしている.さらにトロエメルは,GIFは初期のウェブの特徴を示しているのではなく,インターネットそのものが持つ「情報の圧縮」という傾向が内在している画像であると考える.その上で,トロエメルは,アートで用いられるGIFは,GIFがもっている「検閲」による効率の良さをあえて破棄することによって,その限界を押し広げるものであるとする18

情動
 上で挙げられた「コミュニケーション」「ループ」「圧縮」という要素をまとめつつ,批評家でアーティストのサリー・マッケイはムーディを含めた3人の作家のGIFアニメの分析を通して,GIFが見る者の「情動」に作用すると書く19.GIFが情動に作用する要因のひとつはテレビ,映画と異なり,コンピュータのディスプレイで見るGIFは画像と見る者の位置が「近い」というインターフェイス的側面にあるとする.さらにマッケイは,画像形式の圧縮からくる低解像度のカクカクした動きゆえに動きを「補完」して映像を見る必要があること,制約ゆえの「軽さ」によるダウンロードのはやさなどとループ映像によって物語から離れた存在であること,そして,ネットの流れのなかでスムーズに映像が見られることが相まって,見ている者を軽いトランス状態におくものとしてGIFを考えている.これら特質によって,GIFは見る者の「情動」に影響を与えるとされる.そして「情動」は,GIFを見る者でありコンピュータを使う者,つまりヒトがコンピュータと接していくなかで「モノ」のようになっていくことに対して抵抗するものだとマッケイは考える.これは『ニューメディアの言語』で有名なレフ・マノヴィッチへの批判が込められている.メディアテクノロジーはヒトの内面が外に反映されたものだと,マノヴィッチは考えている20.この考えを受けたニューメディアの文化を研究するミシェル・ヘイニングは,コンピュータのインターフェイスはリンクなどでディスプレイに提示された「精神」をクリックしながらその道筋をたどることになり,ヒトの精神がさらに「モノ」のように認識されるとしている21.対して,マッケイはヒトがコンピュータなどのマシンとの結びつきを強め「モノ」のようになりつつあることは認めつつも,情動への強い作用をもつGIFを介することで,ヒトはモノ化に抵抗していると書く.


 GIFの特徴をうまくまとめながら「情動」を軸にして「GIFによるヒトのつながり」を描く,マッケイのテキストは興味深いものである.しかし,私はGIFによる情動によって見る者がつながっていくのではなく,マノヴィッチ的な考えになるのだが,ヒトがGIFそのものと遭遇することで,世界を認識する仕方を変化させていると考えてみたい.なぜなら,これからさらにヒトとコンピュータが密接な関係になっていくのであれば,精神の「モノ」化を示す認識のあり方を「情動」というヒト単体の機能を用いて抵抗するのではなく,ヒトとコンピュータの複合体がつくりだす「あらたな認識」として肯定的に捉えた方がよいと思われるからである.

11 同上書,23頁.
12 Tom Moody, PBS does "animated jifs" - part 4, 2012, http://www.tommoody.us/archives/2012/03/21/pbs-does-animated-jifs-part-4/ (2013.3.13)
13 Tom Moody, animated GIF Q and A, 2010, http://www.tommoody.us/archives/2010/11/03/animated-gif-q-and-a/ (2013.3.13)
14 Paddy Johnson, Graphics Interchange Format At Denison 
University’s Mulberry Gallery, ARTFCITY, 2011, http://www.artfagcity.com/gif/GIF%20Press%20release.pdf (2013.3.13)
15 Josh Kopstein, The GIF That Keeps On GIFing: Why Animated Images Are Still A Defining Part Of Our Internets, The Creator Project, 2012, http://www.thecreatorsproject.com/de/blog/the-gif-that-keeps-on-gifing-why-animated-images-are-still-a-defining-part-of-our-internets (2013.3.13)
16 Olia Lialina, Animated GIF as a medium, http://art.teleportacia.org/observation/GIF-as-medium/  (2013.3.13)
17 Matthew Fuller, GIFFED ECONOMY, Born in 1987, 2012, http://joyofgif.tumblr.com/tagged/text#!/post/23221575402/matthew-fuller  (2013.3.13)
18 Brad Toremel, The GIF’s Obsession With Compression in Peer Pressure ─── Essays on the Internet by an Artist on the Internet, LINK Editions, 2011, Kindle.
19 Sally McKay, The Affect of Animated GIFs (Tom Moody, Petra Cortright, Lorna Mills), art&education, http://www.artandeducation.net/paper/the-affect-of-animated-gifs-tom-moody-petra-cortright-lorna-mills/  (2013.3.13)
20 Lev Manovich, The Language of New Media, MIT Press, 2001, 61.
21 Michelle Henning, Legibility and Affect: Museums as New Media in Exhibition Experiments, Sharon Macdonald and Paul Basu, eds., Blackwell Publishing, 2007, p.36.

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