なめらかさをめざして

 光の明滅を見ながら,プラスチックに触れるということから,何が生じるのか.ここには従来とは異なる世界が広がっているという予感.それが<ワープ>という表象である.パックマンは,左の通路から右の通路に瞬間的に移動するにも関わらず,私たちはそれをとてもなめらかな動きの中に見てしまう.右から左へ,左から右への移動がとてもなめらかなのである.恐らく,ここには「なめらかさ」を基準にした世界がある.マウスを動かして,思ったよりもカーソルの動きが遅いとき,何かひっかかりを感じ,マウスが重たく感じる.私たちの運動感覚も,重いものを動かしているような感覚を示す.ビデオゲームのおいて,操作がスムーズに行えるかどうかという基準がある.それは言語化できるものではないが,私たちは確かにそのなめらかさを感じている.それは映像とコントローラとの間の感覚を行き来をスムーズにしていくことである.なめらかな領域を確保することと抵抗とのバランスであり,私たちは光の明滅とプラスチックとを組み合わせることで,「なめらかさ」の基準を作った.同時に,その基準を構成する視覚と触覚との新たなつながり,前感覚的なリンケージも形成したといえる.

 そして,新しい身体行為をゲームやヒューマンインタフェースにとりいれていくこと.そのために生じるなめらかさの変化.その変化に対応するために,よりなめらかなものを求めた結果として,プラスチックが担ってきた機能を代用する物質がでてきている.そこでは,マルチタッチのためによりなめらかな表面を提供するためのガラス,3次元のゲーム空間に対応するためにひっかかりを求めた結果としてのシリコンゴムなどといった物質が使われている.それは,物質だけのなめらかさだけでなく,ディスプレイ上の光の明滅と物質との関係から,私たちの身体がよりなめらかに感じ,動けるようにするためである.なめらかさという前感覚的な領域へのアプローチは,デジタルだけでなされるものではなく,映像と物質を含めたつながりによって可能となるのである.そのつながりから,私たちの身体に未生の感覚が生まれ,それはゲームをプレイしていたり,コンピュータを操作しているときに,自然と受け入れているものなのである.

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