伊藤計劃『ハーモニー』の中に出て来た「カーソル」

拡現[オーグ]のコンタクトが常時モニタリングしている注視点.徳目イチロゥが一体視界内の何を観たか.そのカーソルがちょこまかちょこまかと動き回って彼が見つめたものを抽出していく.そのリストと,注視点の挙動自体を許に心理傾向解析モデルががんがん数式を回転させて徳目氏の自殺十分前まらの心理状態を解析するが,「極端な鬱傾向」「自殺傾向」といったまったく驚きのない予想内の解答を面の皮厚く表示する.(p.123) [強調は引用者による]
ハーモニー,伊藤計劃
注視点を示すカーソル.意識の先を示すカーソル.その人が何を見ていたのかを,他者に示すカーソル.カーソルを追うことで,その映像を見る人はその人の意識状態もある程度わかるし,その映像を作り出しているシステムはひとつの解答をだす.カーソルから導き出される解答.

もし,その人が見ているときに,リアルタイムに拡現[オーグ]のコンタクトにカーソルが映っているとすると,カーソルは自分の意識がどこに向かっているかを教えてくれる.意識を何かに向けているのだが,それを明確に示すのは自分の意識ではなく,拡現[オーグ]に表示さているカーソルということになる.システムと結びついた意識の最前面に貼りついているカーソル.

今は何に注視しているかを,自分で判断できる.当たり前のことだが,いずれ,自分が何に注意を向けているのかを,カーソルによって示されなければ,明確にすることができないようになっていくだろうか.

このブログの人気の投稿

マジック・メモ:行為=痕跡=イメージの解体可能性

メモ:「貧しい画像」はもうない

画面分割と認知に関するメモ

『表象18』の共同討議「皮膚感覚と情動──メディア研究の最前線」に参加

メタファーと身体の関係

モノのフラットデザイン化とアフォーダンスなきサーフェイス

日本映像学会第51回大会での発表:VR体験をしているマウスにとっての映像とは何なのか

出張報告書_20150212−0215 あるいは,アスキーアート写経について

京都芸術センターで開催されている展覧会「影の残影」のレビューを書きました🌘

「ユリイカ2025年6月号 特集=佐藤雅彦」で佐藤雅彦さんへのインタビューの聞き手をしました