講義ノート:「ヒューマン」をめぐるひとつの「ポスト」
今年度も東京藝術大学の芸術情報センター(AMC)で「情報美学概論1」を担当させてもらっています.そこで,《「ヒューマン」をめぐるひとつの「ポスト」》ということを考えていました.そこで使った「ノート」です.誰でもコメントがつけられるようになっています.
講義ノート:「ヒューマン」をめぐるひとつの「ポスト」
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講義後に考えたことのメモ
マウスとカーソルという組み合わせは,ヒトがコンピュータと触れ合うための「最小限の干渉」なのではないかということ.画面上のある「1点」を指し示すために,手の自由度を制限するのがマウスという道具.
そして,「最小限の干渉」というところが,秋庭史典さんの『あたらしい美学をつくる』にでてくる「ハーネスの思想」と通じるところがあるなと思っています.
一般に,ハーネスということばは,馬の遮眼帯などのように,自然の力をうまく利用して(当の自然に苦痛を与えることなく),人間に有用な流れに自然を導く,という意味があります.(羊の群れを追い込む羊飼いになぞらえて「シェパーディング」,あるいは流れを導くという意味で「ガイダンス」という言葉を使うこともあります.)それは,最小限の人為(人工物,たとえば遮眼帯)の投入により,自然のシステムを動かし,動き始めた自然のシステムが今度は人工物を含めた自然の全体を動かしていくことを目指したものなのです.(p.155)マウスとカーソルも最小限の人為によって,ヒトとコンピュータとのあいだの情報の流れを整える.マウスを開発したエンゲルバートは,この干渉をまさに「最小限」のものだと考えていて,更に「干渉」する道具を開発することで,よりヒトとコンピュータとの関係が進化すると考えたけれど,結局,マウスとカーソルの干渉が「最小限」であるがゆえに,エンゲルバートの思惑を超えてしまった.
このときにヒトがマウス・カーソルを開発したと言えると同時に,コンピュータがヒトの介入を最小限するにするためにこのモノとイメージとの組み合わせを利用したと考えることができるのではないか.
また,「情報の流れ」「最小限の干渉」ということを考えていると,JPEGやGIFなどが作っていた情報の流れに,最小限の干渉として「リブログ」を備えたtumblrが出てきたのではないかとも考えた.これは残りの講義で考えていきたいところ.
また,講義をしながら[インターネット アート これから]について振り返っていきたいと考えています.展覧会,そして,座談会には,まさに「これから」を考えるヒントが多くあると思います.それを少しでも活かすことができればと思っています.