猫 Cory Arcangel シェーンベルク
Thisnotfree で栗田さんが紹介していたDLDというカンファレンスのなかのグループトーク「Ways Beyond the Internet」で興味を引かれたのが,Cory Arcangel というアーティストの猫がシェーンベルクの曲を弾くという作品《Drei Klavierstücke op. 11》 (2009).
どうやって作ったのかが,彼のサイトで説明されています.それによると,まずYouTubeにあがっている猫がピアノを「弾いている」映像をひたすらダウンロード(170本ちかく)して,そこから音声データを抜きだしてはコピペでつないで,ひとつの長い音声データにする.そして,Comparisonics というソフトを使って,グレン・グールドが弾いているOp.11との比較を行い,似ている音を探す.最後に,その音からもとの映像をとってきてつなぐ(この作業を行うためのプログラムをArcangelは公開しています→ here).
これを作った背景をArcangelはグループトークで.この作品をつくるためにプログラムを作ったことなどから,デジタルシステムはヴァナキュラーになっていたり,20世紀の前衛音楽を(猫で)再−創造するということを話しています.
猫によって「弾かれる」シェーンベルクの曲が,YouTubeによって家でみえるというのがオンラインの魅力だし,美術館やギャラリーなどのリアルスペースのコンテクストにおいてこの作品は前衛音楽の歴史などを考えている人と「猫」を結びつけるというようなことも言っています.そして,この作品がオンライン,リアルスペースの両方に同時に存在していることが重要だとも.
最後にインターネットは日々のことになっているとも言っています.
私がこの作品を面白いなと思ったのは,20世紀の前衛音楽をプログラムとYouTube を組合せることで,「猫」が「弾いて」しまっているところです.冗談のようなかたちで脱ヒト化が起こっているような気がします.実際,Arcangelも冗談だといっているますが… ヒトではなく猫がシェーンベルクの曲を奏でる.それを可能にしたのが,多くの人がYouTube にあげた170本ものただ猫がピアノの上で遊んでいる映像と,その映像から曲を再構成するためのいくつかのプログラムです.インターネットが日常化したからこその170本もの映像だし,プログラムという作業もある程度ヴァナキュラーなものなったからこそ,こうした「冗談」のようなもののために利用されたり,あらたに作られたりする.そして,これらが組合せられると「脱ヒト」が起こるということが,とても興味深いのではないかと,私はこの映像を見ながら思ったわけです(なかなか英語がききとれないというヒト的な悩みを抱えながら…).