Expanded Smooth
SMART THINGS: Ubiquitous Computing User Experience Design, MIke KUniavsky を読んで,印象に残ったテキスト.デジタル情報は,手に触れることができる固有な性質を持っていないということ,デバイス間の情報のシームレスのやりとりに「なめらかさ」という言葉が与えられていること.
Traditional material (steel, plastic, or cotton) have properties such as elasticity, strength, resistance to corrosion, etc., but digital information has none of these inherently. (p.48)
伝統的な素材(鉄,プラスチックや綿)は,伸縮性や強度,腐蝕耐性などの性質を持っているが,デジタル情報はこれらの固有な性質を持っていない.
These technique approach ubicomp UX design involving multiple devices by smoothing over task disconnects through consistency. No technique has emerged as dominant and it may be that technological immaturity will continue to frustrate designers' attempts at anything but highly limited continuity. This may actually be for the best. Critiques of attempts to create "seamless" interaction often conclude that clear but inconsistent interactions may create more continuity than consistent but confusing ones. (p.281)
ユビキタスコンピューティングのユーザエクスペリエンス・デザインに対するこれらのテクニックは,一貫性を通してバラバラのタスクを滑らかにつないでいく複数のデバイスが含まれている.支配的なテクニックはまだ出てきていないし,技術的な未成熟さがデザイナーの試みばかりか,極々限定された連続性をも無効にしつづけているのかもしれない.このことは実際には最善のためかもしれない.「シームレス」なインタラクションを創造する試みへの批判は,わかりやすいけれど一貫しないインタラクションの方が,一貫性はあるが混乱しているインタラクションよりも,連続性を作り出しているとしばしば結論づける.
デジタル情報は与えられるマテリアルによって,手に触れる部分の性質を得る.例えば,MacBook のトラックパッドのガラスによって「なめらかさ」が,ヒトに与えられる.この「なめらかさ」は,今まで通りの意味である.しかし,情報のシームレスなつながりのところで使われている「なめらかさ」は,従来の意味ではない.ここでは,「なめらからさ」の意味が拡張されている.手で触れることができない現象に「なめらかさ」ということが与えられている.それは,Mike Kuniavsky が「情報はマテリアルである」と考えているからだと考えられる.「情報はマテリアルである」と考えることから生じる,言葉の意味の拡張とそれと同時に起きているヒトの感覚の拡張は面白い.情報のシームレスなつながりを示す「なめらかさ」は拡張されたものであり,「Expanded Smooth」ともいえるものなのではないだろうか.
ガラス製のトラックパッドもガラスの表面のなめらかさだけでなく,それと同時に起こる画面上の変化,アニメーションとのつながりが新しい「なめらかさ」をヒトに与えているといえる.画面上のアニメーションだけがなめらかであっても,新しい「なめらかさ」は生じない.触れているモノと見えているイメージとの密接な関わりが拡張された「なめらかさ」を生み出す.これはひとつのデバイスだけのことだが,モノとイメージとのあいだを移行する中で生じる「なめらかさ」である.