児嶋啓多さんの展示会=作品集「Augmented Presentations」にテキスト「非意識を覗き込み,外界との誤差を含んだ仮想世界を見る」を寄稿しています.冒頭の段落です.
児嶋啓多の作品を見ると,私はいつも意味の手前にある何かを感じてしまう.その何かは意識研究で「非意識」とされている領域である.非意識は意識を形成するために,外界から取得した夥しい量の情報を高速で処理しているが,ヒトはそれを体験することはできない.だから,「非」意識なのである.非意識で処理された情報が意識にのぼったときにはじめて,ヒトは外界とそこで起こっている現象を認識する.脳神経学者の渡辺正峰は哲学者アンティ・レヴォンスオの仮想現実メタファー仮説を参照しながら,外界に関する情報から脳が非意識の領域で三次元の仮想世界を生成していると考えている.ヒトがあたらしい状況に置かれたときに,眼や耳などの感覚器官から得られる外界の情報から最初につくられる仮想世界の原型は外界と全く似ていない.そのときの仮想世界がどんなかたちをしているのかはわからないが,ヒトの認知プロセスは外界と似ても似つかないもう一つの世界とともにはじまるのである.そして,非意識の領域で仮想世界と外界との誤差は次々に修正されていき,仮想世界は認識モデルとして精緻化されていく.精緻化された仮想世界が外界と同期した時点で,脳内の三次元世界は非意識の領域から離れ,意識にのぼる.私たちは外界そのものを認識しているのではなく,外界の情報から立ち現れた仮想世界を認識している.児嶋の作品は,私たちの意識に上がることがない精緻化される前の仮想世界を見せてくれるのではないだろうか.
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