6月1, 2日に山形大学で行われた日本映像学会第45回大会で「インタラクションにおける映像の物質的質感───ISSEY MIYAKE 「DOUGH DOUGH」のWEBページが示す「マテリアル」という発表をしました🧐
発表のほぼ1ヶ月前に書いた発表概要📝と発表ノート📖です.
発表概要
ISSEY MIYAKE が2019年の春夏コレクションで発表した「DOUGH DOUGH」は,「ねじる,丸める,揉む,折る,伸ばす───パン生地(dough)のように好みの形へと変化させ”自遊”自在に楽しむことのできる布」である.そして,「DOUGH DOUGH」のウェブサイトもまた布のような質感を持った表現となっている.ウェブサイトと映像をディレクションしたコンピューテショナルアーティストの橋本麦はサイト制作の狙いを「クシャクシャっとしたら,その形状がキープされる生地のブランドサイトだったので,Webページ自体が自己言及的にクシャクシャなったら面白いだろうと着想しました」と述べている.そのサイトはスクロールするとウェブページがあたかも布のようにクシャクシャになってスクロールされていくものになっている.
ウェブページはもともと冊子や巻物といった物理的対象をコンピュータの画面内にシミュレーションしたものであった.レフ・マノヴィッチが『ニューメディアの言語』で,コンピュータ画面内において「伝統的なページはヴァーチャルなページとして定義し直されて」いったと指摘するとき,ページは皺をつけずにスクロールできるヴァーチャルなウェブページになったと言える.しかし,皺を持たないヴァーチャルなページは,電子書籍の登場とともに「めくる」ことができるようになり,タッチパネルを備えたスマートフォンの登場とともに「慣性」を取り入れ,徐々に「伝統的なページ」に近いものになっていった.そして,Googleはコンピュータの画面内の要素を「物理的な性質をもった実際のマテリアル」だと考える「マテリアルデザイン」というデザインガイドラインを発表した.インターフェイスデザインにおいて,最初は物理的対象のシミュレーションだった画面内の映像が,現在では「マテリアル」と定義されるようになったのである.
ISSEY MIYAKEのウェブサイトは,スクロールというインタラクションを起点として「DOUGH DOUGH」の物質的質感を示す「マテリアル」をつくりだしている.マノヴィッチが三宅一生の服飾デザインを「ある特定の概念的な手続きがテクノロジー的なプロセスに翻訳された結果」と指摘していることから考えると,「DOUGH DOUGH」の質感を橋本がウェブページで表現したことは偶然ではないだろう.なぜなら,三宅の名前と思想を受け継ぐISSEY MIYAKEのデザインチームがつくる「DOUGH DOUGH」は,三宅が手がけていた時と同様に概念的な手続きをテクノロジー的なプロセスに翻訳することで,画面の内と外とをまたいで存在できる「マテリアル」になっていると考えられるからである.「布」を基点とした概念とテクノロジーとの行き来のなかで,橋本はウェブページの「表象」とスクロールという「行為」を練り合わせて,「DOUGH DOUGH」という「マテリアル」を画面内につくりだせたのである.
コンピュータ以後,特にタッチインターフェイスを前提としたスマートフォン以後の映像は,「表象」と「行為」とを練り合わせた「マテリアル」として考える必要があるのではないか.映像は「マテリアル」となって,「パン生地」のような触覚的なものになっているのではないか.発表では,Mikael Wibergの『The Materiality of Interaction』や河合政之の『リフレクション』を参照しながら,「DOUGH DOUGH」を起点として画面内と外との関係を考察し,「表象」と「行為」とを練り合わせた「マテリアル」という映像のあらたな形態がつくられていくプロセスを解明していきたい.
発表ノート