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日本映像学会第51回大会での発表:VR体験をしているマウスにとっての映像とは何なのか

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神戸大学で開催された日本映像学会第51回大会で「VR体験をしているマウスにとっての映像とは何なのか」という発表をしました。発表資料の最後に「この研究はJSPS科研費 23H00579 (モアザンヒューマンの美学――動物論的転回以降の感性論的可能性)の助成を受けたものです」と記したように、私はここ3年、動物が何かしらのインターフェイス関連の体験をしている題材を探していました。そこで見つけたのが、マウスがHMDをつけられてVR体験をする研究です。3年の科研の2年目の終わりで、マウスVR研究を見つけました🐭🥽🥸 セーフ!  これでやっと科研の研究が進められると思ったものの、研究をどうすれば進められるかと、トマス・ネーゲルの『コウモリであるとはどのようなことか』を読みましたが、主観的体験についての限界を知って、頭を抱えるだけでした。それでも、どうにか発表の形にまとめられました。 今回の発表準備での変化は、NotionAIの半額オファーが来ていたので、契約して、AIを積極的に使ったことです。無制限にAIを使いながら、研究を進めました。ある程度、発表資料を書いたら、「発表資料のいい点と改善点を教えて」と聞いて、いい点を読んで「いけるぞ!」と思って気分を上げた後で、改善点で「おー、確かに」と頷きながら、自分で改善したり、AIに具体的に改善してもらったりしました。途中から、Notion AIだけでなく、比較も兼ねて、契約についてきたClaud、chatGPT、Geminiも使って、それらと対話を重ねながら、発表資料をまとめていきました👾 私はアイデアを勢いで書いたあとで、アイデア同士を接続していくのが苦手なのですが、生成AIたちはそこが得意みたいで、「そうやって、アイデアをつないでいくんだ」と感心することが多かったです。 使ってみたAIで発表資料に対する的確なコメントをくれたのは、GoogleのGeminiの2,5 Proでした。同じくGoogleのNotebookLMも良かったです。特に、Geminiが発表資料をもとに書いた論文を、NotebookLMにポッドキャストにしてもらったものはおもしろかったです。発表前に流していたら、会場で笑いが起こりました。 今回の発表は、一方で、マウスという主観的体験を推測するしかない存在を扱いながら、もう一方で、インターネットにあげてきた...

PaperCに「 REVIEW|展示をめぐるフレーム ──非意識的空間と無意識に至るトンネル」を書きました

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PaperC の編集をしている永江さんに声をかけてもらって、 ねる による2つの展覧会「ぐねる」と「トンネル」のレビュー「 展示をめぐるフレーム ──非意識的空間と無意識に至るトンネル 」を書きました。公開からしばらく経ってしまいましたが、その紹介ブログです。 永江さんに声をかけてもらったときに、メディアアートの展示でないので、私にレビューが書けるのかということを考えました。でも、ねるが残した展示につながる企画書などを読んでいると、今回の2つの展覧会には「いつまで、どこまでが展覧会か」という問題意識があると思い、それは私が近頃感じていた「レビューはいつから始まり、どこで終わるのか」という問題意識と近いところがあると思って、書いてみようと思いました。 なので、今回はレビューそのものはPaperCに上がっているものですが、そのレビューを書くときに永江さんに送ったメールやメモなどをNotionにまとめたものもリンクで紹介してもらっています。今回の展示は、展示が終わったあとに、感想を積極的に集めていて、その際に書いたテキストもまとめています。展示された作品を中心にした展覧会のレビューらしい「レビュー」は、Notionにまとめられている文章の中にあるかもしれません。 展示のレビューを書き終えて、しばらく経って、「ねるneru企画「ぐねるとトンネル」座談会」のお知らせが届きました。レビューを書いた人として参加しようかと悩みましたが、最終的に出ませんでした。このテキストを書いている今、改めて考えると、「逃げた」ような気もしています。そのときからもこの座談会に出ないのは「逃げ」のような気がしつつ、そのような心持ちで座談会のZoomに参加するのも嫌だと思っていて、最終的、参加しないという選択をしました。そのことをここに書くのもどうかと思いますが、レビューを書くということは、こうやってことあるごとに選択を迫られるものなのだと思い、書いています。 最後に、この紹介のブログを書いているときに、「ぐねる」にも「トンネル」にも「ねる/ネル」と「neru」が入っているなはじめて気づきました。こうやって、大事なことはあとに気づくけれど、そのときはもう自分が書いた文章は自分では変えられないところにあります。

紀要論文「《Layered Depths》が示す「マルチレイヤードなメディア体験」に基づく映像体験」が公開されました

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紀要論文「《Layered Depths》が示す「マルチレイヤードなメディア体験」に基づく映像体験」が掲載された 「甲南女子大学研究紀要Ⅰ 第61号」が刊行されました. 紀要論文の要旨です. 本論文は,ヨフの《Layered Depths》の考察を通して,「マルチレイヤードなメディア体験」に基づく映像体験を明らかにするものである.ヨフによる作品説明を前提にして,《Layered Depths》の作品体験を考察していき,以下の3つの主張を行う.まず,彼らの作品の根底にあるコンピュータ以後のメディア体験が擬似空間と鑑賞空間との関係に変化を引き起こしていること.次に,《Layered Depths》が19世紀に生じた「映像を見る」という体験をひっくり返していること.最後に,コンピュータが「映像を見る」という体験に持ち込んだ仮想空間が映像を含んだディスプレイを「行為」の対象にし,擬似空間を鑑賞空間から独立させたこと.これらの主張を通して,映像体験が「見る」だけに留まらず,眼前の対象のより良い認知を求めて自ら変更していく「行為」を伴う主観的な体験になっていることを示す. 甲南女子大学の学術情報リポジトリに PDF が掲載されていますが,紙で読みたいという方がいましたら,以下のフォームから申込ください.抜き刷りを発送します.

「./MYTH.YOU あなたの中から神話を見つけられたみたいです。」のシンポジウムに参加しました

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アーティストの 伊藤道史 さんの展示を中心にした「 ./MYTH.YOU あなたの中から神話を見つけられたみたいです。 」というプロジェクトでのシンポジウムに参加しました.私が参加したのは,以下のプログラムです.とても楽しかったです☺️ ●Program.03 デジタル・オブジェクトの呼び声 3月15日(土) 19:00-20:30 水野勝仁(メディアアート研究者)× OBJECTAL ARCHITECTS (守谷僚泰+池田美月)× 宇佐美奈緒 (アーティスト)  発表に関するテキストとスライドはこちらです. 266:アイバン・E・サザランド「究極のディスプレイ」|1965年 を読みながら考えた 発表の振り返り OBJECTAL ARCHITECTSの池田さんが,360°カメラで撮影したディズニーランドの画像を見せながら,話したことが面白かった.池田さんは留学先でいきなりデジタル空間を移動する体験を叩き込まれたと言っていて,その体験もあって,360°カメラで撮影したディズニーランドを「知っている」と思ったということだった.360°カメラで撮影した画像は,明らかに私たちの視界とは異なるパースペクティブで世界を捉えるのだけれど,デジタル空間体験を叩き込まれたと言えるほどに身体に作用した状態だと,その異質な画像を「知っている」と感じる感覚が面白かった. 守谷さんが自分たちが手掛けた建築の事例を説明するときに「インターフェイスを介さない」という言葉を使っていて,とても面白かった.それは,私がインターフェイスに介さないで触れられる物理空間とそこにある物質というのが,実は特殊な状況なのではないかと考えているからであった.インターフェイスを介して,同一の情報を複数の視点から異なるものとして体験するということが,情報の体験という点ではノーマルな体験であって,インターフェイスなしで体験できて,同一性が保持される物質というのは,情報の体験としては異質な状態,もしかしたら,プリミティブな状態なのではないかと言えるのかもしれない.このように書くと,物質は情報ではないという反応は真っ先に来るだろうけど,そうではないよということを,アイバン・E・サザランドの「 究極のディスプレイ 」や渡邊恵太さんの『 超軽工業へ 』を引用しながら示したのが,私の発表だったということになる. この言葉がきっかけ...

映像身体論研究会での発表

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「ポストインターネットにおいて,否応なしに重なり合っていく世界」から考えていることの発表資料 https://www.notion.so/mmmmm-mmmmm/19ca1dc0748180cd9ffbd5f17edd9051 映像身体論研究会の発表を終える.7年前の論文を紹介するというのは,7年という結構な年月をどのように処理していくのかというところを考え続けた,2週間くらいであった.小学校よりも長い年月を過ごしていると,自分の考えも変わっている,いや,考えというよりも知識が変わっている.いや,知識も含めた考えが変わっているというべきだろう.様々なことがリンクしていっているものを,まとめようとすると別の論文やテキストになるけれど,今回は,7年前に書いてテキストに戻るというか,そこをベースにするということは前提として決めていたので,あたらしいリンクを継ぎ足しながら,過去の自分の考えを辿っていくという体験になった.これはこれで面白いものであったけれど,聞いている方にしてみれば,あっちいったと思ったら,こっちに戻ってきてとわかりにくいところはあったと思う.でも,7年という年月を7年前のテキストを活かしながら,語るというのは,こういった,今と過去との間を行ったり来たりになるのではないかと思う.7年前をなかったことにはできないし,今をないものとしても扱えない.そのなかで,自分がどのように考えていて,考えてきたのかということを考える必要があったということになると思う. 発表を聴いてくれた皆様,うまく回答ができたかは心許ないですが,北出さんはじめ質問をしてくれた皆様,そして,発表の機会をつくってくれた難波さん,ありがとうございました☺️

メディア映像史 (2024年度水野担当分)の授業資料

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  今年度も 愛知県立芸術大学のメディア映像専攻 で「メディア映像史」を担当しました.15回中5回を「インターフェイスとともに考えるメディア映像史」という感じで,インターフェイスの歴史を振り返りました. 学生からのコメントから思考を刺激されることが多かった講義でした. 昨年度に比べて,だいぶシンプルになって,よりわかりやすくなったと思います.3回目で「カーソル」を扱うところは大幅に書き直しました.身体とカーソルとのつながりを考えつつ,重なるウィンドウについても考えが進みました.実装の仕方が間違っていたために訂正もありましたが,ウィンドウという1つのデジタルオブジェクトが「重なり」と「リスト」という2つの形式で処理されて,それをカーソルという「ここ」を示すデジタルオブジェクトが選択するということは,とても重要な感じがします.世界は1つではなく,複数の現れになるが,私の現れは1つであるということ.私は1つで,世界は複数である.そして,世界の複数の現れは,エンゲルバード曰く「n次元の情報」を制御できるコンピュータとは相性がいい.コンピュータは1つの私と2つ以上の世界の現れとリンクするののにちょうどいいメディウムとして,私の目の前にあるような気がしますということが,今感じられました. メディア映像史 (2023年度水野担当分)の授業資料 https://mmmmm-mmmmm.notion.site/19ba1dc0748180acb6b7d2ead28e8784?v=19ba1dc07481810795c5000cd25b16cb&pvs=4

2024年の振り返り

2 024年はこの投稿を含めて12本の記事を書いています.2023年が23本だったから,半分くらいになってしいました.  ちなみに note には14本(この記事を投稿した後に1本投稿しました) の記事を書いています.そのほか,しずかなところで,毎日テキストを書くようにしていて,年内に224本の記事が上がると思います.こちらにテキストを書いて,noteにまとめるという流れもできています. 2023年も2月に授業資料をあげるところからスタートしています.愛知県立芸術大学でやっている「メディア映像史」で私が担当している5回分と,甲南女子大学でやっている「メディアアート論」の授業資料になります.また,今年度から女子美術大学で「メディアアート概論」の5回分も担当しました. メディアアート論(2023年度)の授業資料 メディア映像史 (2023年度水野担当分)の授業資料 メディアアート概論(2024年度水野担当分)の授業資料 3月には科研の報告会に参加しました.遥か昔のことのようです. 2021~23年度科研費「生命の物質化・物質の生命化に関する理論調査と制作実践」成果報告会 報告会と並行して,5月の日本映像学会の発表を準備をしていました.そして,無事に5月に発表できました.こちらは現在, 大学の紀要論文 に発表の前半部, ÉKRITS に後半部を掲載できるように作業中です. 日本映像学会第50回大会での発表:ヨフ《Layered Depths》とともに考える「スワイプを介して生じる映像と空間との関係」 「ヨフ《Layered Depths》とともに考える「スワイプを介して生じる映像と空間との関係」 」の報告文が,日本映像学会の会報に掲載されました 6月には,2023年11月に開始されたシンポジウムが,共同討議「皮膚感覚と情動──メディア研究の最前線」としてまとめられて,『表象18』に掲載されました.シンポジウムに誘ってくれた難波阿丹さんには日本映像学会の「 映像身体論研究会 」にも誘ってもらって,そちらにも参加しています.2,3月に私の担当の発表があります. 『表象18』の共同討議「皮膚感覚と情動──メディア研究の最前線」に参加 アーティストの古澤龍さんに誘われて,アーティストトークに参加しました.ブログにも書いた「解像度とフレームレートを合わせた「情報量」をヒトは...