ヌケメさんとのトークメモ



《Old School》について

家にある《Old School》を90度回転して置いてみたら,とてもびっくりしました.Windowsのアイコンが突如,モノ化した感じがしたのです.



木にプリントされた時点で,ディスプレイの光の集まりであるアイコンはモノ化しているわけですが,この段階ではまだ木の表面にプリントされたイメージという感じがあります.ヌケメさんはそれを彫ります.そうすると表面に凸凹が生じます.そこで更にモノ感が増すわけですが,一番上の画像のように置かれるとどこかまだイメージな感じがします.それはプリントがパソコンのディスプレイと同じように垂直に提示されているからかもしれません.垂直だった彫られたプリントを水平に置いてみると,木片の凸凹が影で強調され,モノらしさが前面にでてきたのです.これを新鮮な驚きでした.これはアメリカの美術史家レオ・スタインバーグが提起した概念「フラットベット絵画」とも通じるところがあるかもしれないと考えています(→参照:アザー・クライテリア).ヌケメさんの《Old School》は水平と垂直がこじれている感じがします.



また,《Old School》を考えるためにもうひとつ参照したいのが,マイクロソフト社の「Windows 8.1 ユーザー エクスペリエンス ガイドライン」で示した「"真のデジタル化" とは、アプリが画面上のピクセルにすぎないという事 実を踏まえる」ということです.影がない光のみのピクセルを物理世界に引っ張りだすと,そこには影が必ず生じます.ヌケメさんの木を彫るという行為は影がない世界から持ちだした画像に「影のパラメータ」を付与して,操作することなのかもしれません.

影の視点から今回のあたらしいバージョンの《Old School》の木の厚みを見てみるとおもしろいです.新作は薄くなっていて,木片というよりは板になっています.木片の正面にプリントされて彫られたアイコンよりも,板にアイコンの方が角度をつけて展示されることで,影がよりはっきり見えてきます.板という薄いものを掘って,切り口に影が生まれて,それがモノの感じを醸し出す.なので,あたらしいバージョンの《Old School》のほうが,立体感が強かった気がします.それは周りをグルっと回って作品を見ることができて,そこで影を含めた見え方の変化が生まれるからかもしれません.



グリッチ刺繍について

ヌケメさんのページ→割かとナイスコミュニケート

ヌケメさんと言えばグリッチをつかった洋服が有名です.デジタルデータを「破壊する」グリッチを刺繍したTシャツがあるのですが,なぜプリントではなく,刺繍なのか気になるところです.「表と裏/表象と構造」があるからだろうか?



ヌケメさんを知る

ヌケメさんのトーク記事2つ
>ヌケメさんのことを知るならこのトークのまとめがお薦め.

ヌケメ:そうですね,なんでも楽しくすることができるんじゃないかな,という気持ちになります.


>この対談でヌケメさんが言っている「僕も作品の中にはなるべく「自分」を入れたくないと思っています.自分が居なくても成立する,自分は何もしていないことが理想で.例えばWordのデフォルトのフォントを使うとか,帽子もありものをそのまま使ったり,エイプのコピー商品をテーマにした作品で機械に勝手にデザインさせている部分には,そういう気持ちが出ていると思います」という部分はとても気になります.


イメージの中の手触り

「インターネットカルチャー」を特集したMASSAGE9に掲載されている「INTERNET FASSHON」というヌケメさんの解説記事は,ファッションに興味ある人は必読です.

デジタル・データに手触りを与え,布や洋服として物質化することが,ある種のトレンドになっている.慣れ親しんだインターネットや,デジタル画像を身にまといたい,というのは通常の愛着の現れだが,Badsmellingboyの作品は,こうしたデジタルを物質化するトレンドに対して,ある種の皮肉めいたメッセージを含んでいる.最初からインターネットにあり,インターネットの中で完結する作品でありながら,イメージの中には手触りが存在している.今回紹介した事例の中でも,彼はさらに先の未来を見ているように思える.(pp.96-97)
解説でふれられているBadsmellingboyの作品は,ヌケメさんと是非話してみたい.「イメージの中の手触り」とはなんだろうか.これはとても気になっています.

下の画像の服には,重力とモノが貫入しない世界ではありえないような手触りがあるのですが,その存在を想像できてしまうところが面白いです.こちらの(物理)世界があるのが確かならば,あちらの世界もその境界から生じて,その感覚を想像できてしまうのかもしれません.


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