お仕事:メディア芸術カレントコンテンツへの記事_19

記事を書きました→「インターネット・カルチャー」を特集した「MASSAGE」の第9号が刊行

インターネットには2種類のスピードがあるということを「MASSAGE」に掲載さていた作家のインタビューを引用しながら示しました.2つのスピードのひとつは歴史の形成もさせないような作品・画像流通の速さで,もうひとつは作品制作におけるアイデア→制作→発表という一連の流れ自体の速さです.

[この2種類の速さというのは,私が「MASSAGE」に書いたライダー・リップス氏についてのテキスト「『新鮮な暗闇』に立ち向かうためのユーモア」で書いたものに通じるものです]

また,最終的にはうまくまとまらなかったので削除しましたが,2つの速度とそこから生じる大量の画像の蓄積とのあいだで「イメージの中の手触り」が生じるのではないかということも書いていました.「イメージの中の手触り」というのは「MASSAGE」にヌケメさんが寄稿したインターネットとファッションとの関係を解説したテキストにあった言葉です.響きがいい言葉です.なので,どうしても使いたかったのですが… ヌケメさんとは異なる観点から「イメージの中の手触り」が生じる,まさにその状況を考えるのがとても難しかく,挫けました.

インターネット・カルチャーのなかのアーティストのインタビューやヌケメさんのファッション記事が読める「MASSAGE」を是非,読んでみてください!

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以下,ボツテキストです.

カレントコンテンツのテキストの「歴史」「スピード」のあとに書いていてものになります.

手触り
ニューヨーク在住のAlexander Gibon氏がスウェットやTシャツの画像にグラフィックを貼りつけた作品を大量に上げたTumblrのプロジェクト「Bad smelling boy」.Alexander Gibon氏は制作したグラフィックを洋服に貼りつけて発表することに対して,それは「アート」でも「ファッション」でもない「どこにも属していないもの,実際に存在していないものに属することは,とても健康的なことだと思ってる(p.103)」と述べている.

グリッチ刺繍で有名なヌケメ氏は,Gibon氏のプロジェクト「Bad smelling boy」を含めて,インターネットとファッションとの関係を論じている.その論考の最後でヌケメ氏は「デジタル・データに手触りを与え,布や洋服として物質化することが,ある種のトレンドになっている.慣れ親しんだインターネットや,デジタル画像を身にまといたい,というのは通常の愛着の現れだが,「Bad smelling boy」の作品は,こうしたデジタルを物質化するトレンドに対して,ある種の皮肉めいたメッセージを含んでいる.最初からインターネットにあり,インターネットの中で完結する作品でありながら,イメージの中には手触りが存在している(p.97)」と指摘している.

インターネットは非常に速く作品を拡散していくこともひとつの質感を形成するが,拡散したものを遡ることで生じる質感もある.これらが組み合わされて「イメージの中の手触り」が生じてくるのではないだろうか.「Bad smelling boy」の「実際に存在していないものに属すること」は,このプロジェクトのTumblrをスクロールし続けると感じられてくる.ひとつの作品だけ見ても,そこで何がやられているのかわからないが,サイトをスクロールし続け,作品を見続けるとヌケメ氏が指摘する「イメージの中の手触り」が感じられてくる.(大量のイメージのなかで手触りが生成してくる.それはアイデアと制作の速さと,作品伝播の速さ,つまりアイデアの拡散がいつしか落ち着きはじめるような閾値を超えることがおきたときにそれらの「速さ」はもう用をなさない無時間的な存在となる?)

インターネットでは,アイデアが制作と直結することで,ほぼナマのまま作品となりネットに流れていくが,それらの作品は頭の中で蒸発していく大量のアイデアと同じように明確な歴史を持たない存在である.同時に,大量につくられた作品はインターネットのどこかに蓄積されていく.インターネットでは「流れ」と「蓄積」のあいだに作品があり続けることになり,そのなかで「イメージの中の手触り」が生じてくるのであろう.

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