告知とメモ:「カンバーセション Semitransparent Design,水野勝仁」

21_21 DESIGN SIGHTで開催されている「田中一光とデザインの前後左右」の関連プログラム「カンバーセション Semitransparent Design,水野勝仁」が,2013年1月13日(日)に開催されます.お時間がありましたら,是非お越しください.

まだ時間があると思っていても,もう1ヶ月を切っているので,少しずつその場で話すかもしれないことを考えていかなければという感じです.
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ということで,以下,メモ.

展覧会のカテゴリーに「文字,タイポグラフィの追求」があって,そのなかに「活版文字と写植文字」という項目があります.そこに「ゆらぎ」や「にじみ」という言葉が書かれた部分があります.
「第八回産経観世能」のプログラムでは,小さな級数で打った写植文字を原寸大に引き伸ばし,そこで生じた微妙な紙焼きの調子をかすれやちぎれとして写しとり,フリーハンドの微かなゆらぎを愉しんでいた.こうした風合いを,活版の圧力に求めたのが,続く「第九回産経観世能」のポスターである.活版用初号活字を粗目の紙に印圧をかけて印字し,拡大して現れるインクのにじみをもとに,その線の太さやとぎれに着目して,毛筆の文字のイメージに仕上げた.(p.12)[強調引用者] ,田中一光とデザインの前後左右
田中一光は,活版文字と写植文字を極端な方法で用いることで生まれる「ゆらぎ」や 「にじみ」に着目して,デザインを仕上げています.このことから連想したのが,写真家のトーマス・ルフの「jpegs」という写真集です.この写真シリーズは,ネットからルフが取得したJPEG画像を再び極度に圧縮した際に生じる「アーティファクト」と呼ばれるノイズにデジタル独自の「美」を見出したものです.田中とルフともに「極端」な行為を行うことで生じる「ノイズ」を表現に仕上げていて,デジタルとアナログとを跨ぐ形で,このふたりのあいだには一本の線がひけるのではないかと考えるわけです.

  • 田中一光|印刷:引き伸ばし・印圧|文字のゆらぎ・にじみ
  • トーマス・ルフ|JPEGの圧縮|画像上のノイズ[アーティファクト]

セミトランスペアレント・デザイン(以下,セミトラ)は,デジタルにおける「劣化」を作品のなかで表現しているという意味では,田中・ルフとつながる感覚がある感じがする.ただセミトラの「劣化」は時間軸のなかで起る表現で,上のふたりはポスターという印刷物や写真という静止した表現であるから少しちがう感じもする.

  • セミトラ|アルゴリズム?|劣化(のように見える表現)

セミトラが表現しているものは何なのかを考えると,最終的に「印刷」されるものではなくて,表現がなされていく「プロセス」のなかにその多くがある感じがします.田中が「印刷の美」,ルフが「ピクセルの美」だとすると,セミトラは「プロセスの美」となるのでしょうか.ただ,セミトラもルフと同じようにディスプレイ上の「ピクセル」を用いているわけですので,「ピクセルの美」とも言えるのではないでしょうか.

ピクセルは「論理でありかつフィジカルでもある」と,グラハム・ハーウッド[Pixel, Graham Harwood in software studies\ a lexicon]は指摘します.そして,ピクセルは「アルゴリズムによって「世界」を切り出し,サンプリングし並べ直す」としています.このハーウッドの言葉から,セミトラとルフを比較してみる.ルフはJPEGという既存の圧縮画像プログラムを使って,その「フィジカル」な部分に注目していると考えられます.セミトラは,プログラムを書いて,ディスプレイに映るものを形作っています.そうすると「論理」の部分にもリーチしていると考えられるわけです.

「フィジカル」ということを考えると,なんとなく一番「フィジカル」なのは田中一光の「印圧」という感じがしてきます.印圧で生じた「にじみ」を利用して,それを網点という点の集合にしていくわけですから,ここには「ピクセル」との類似点もでてきます.

グルグルしてきたので,また改めて考えよう.


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